炬燵の中

炬燵にだらしなく寝そべり本を読む。単に仰向けになっただけでは本に影で出来てしまうので、微妙に半身を捻り、具合良く本に蛍光灯の光があたるようにする。その蛍光灯は半球型のカヴァーに覆われていて、まるで太陽のようだ、というには光が柔和すぎ、月のようだというには強すぎて、つまりは蛍光灯はやっぱり蛍光灯に過ぎない。ところどころに黒くシミなようなものがあるのは、勿論黒点でもクレーターでもなく、隙間から這入りこみ出れなくなったあげく死んでしまった虫の死骸で、蛍光灯とはいえ多少熱をもつだろうから虫たちにとっては灼熱の地獄のようなものかもしれない。短編を一つ読み終わり本を伏せ、仰向けになって、半球型のカヴァーに覆われたその蛍光灯をぼんやり見るとはなしに見ながらそんなことを思っていると、自分の手がひどく冷たくなっていることに気がついた。炬燵からずっと腕を突き出していたのだからそれは当然のことだったのだけれど、本を読んでいる間はまるで気にならないでいたから、その冷たさに少し驚いてしまった。そのすっかり冷えてしまった手をやや火照った頬にあてがうと、冷えた手に火照った頬の温かさが心地好く、火照った頬に冷えた手の冷たさが心地好かった。この心地好さはアレだ。熱量保存の法則というやつだ。と、くだらないことを思う。