雨傘

平日の昼過ぎに乗り込んだ車内の大半は六十を過ぎた老人ばかりで、傘を両手でしっかりと抱え、ちょこなんと座席に一列になって座っているその様子に、罪悪感を覚える。僕と同年代くらいの乗客がいないこともないが、いや、僕が勝手に同年代だと思うだけで、おそらくは僕より年下の大学生に違いなく、僕の隣りに座った若い女性の二人連れは、就職活動中の学生らしく、真新しいスーツを着て、何かしきりに話し合っているのだが、すぐ隣りに座っているにも拘わらず、その声はまるで聞き取れない。
少しやるせないような気持ちで、窓の外を眺めていると、待機しているのか、放置されているのか、色とりどりの貨車がズラズラと一列に連なっていて、それらの貨車には、コキだとかワムだとか、少し愉快な名前がつけられているのは知っていたのだけれど、どれがコキだかワムだか、そこまではわからない。そういえばこの辺りにはJRの操車場があったはずで、いつだったか、迷子気味の散歩の途中で、行き着いたことがあった。凸型をした赤い機関車が、貨車も客車も連れず、どこか寂しげに、とぼとぼと走っていた。あの時は随分と遠くまで迷いこんでしまったと思ったのだけれど、電車に乗ってしまえば、たった二駅に過ぎない。
やがて窓の外の光景はビルばかりになり、傘を差し歩く人の姿は見えなくなってしまったのだけれど、空は相変らずどんよりとしていて、はっきりと雨粒が見えているわけではないが、おそらくまだ雨は降り続いているのだろう。
不意に、今手にしている傘の、この色は、一体何色というのだろう、と思う。青色であるには違いないが、今乗っている普通列車のさわやかな青(確かスカイブルーとかいうはずだ)とは違って、少し鈍いような青で、おそらくはこの色を言い表わすぴったりな言葉があるのだろうけれど、それがどういう言葉であるのかは僕にはまるでわからない。
大阪駅に着き、改札を抜けたところで、突然法螺貝が鳴った。空耳かと思ったが、そうではなくて、尾を引いて長々と鳴り響いていた。法螺貝だけにまるで嘘のような話だと、そう思うのだけれど、本当に聞こえたのだからしかたがない。