ハサミムシ

便座に腰を下ろしたところで、紙巻器のすぐ脇に、ハサミムシが貼りついているのに気がついた。こちらが見えているのか、明かりに反応しただけなのか、威嚇するようにハサミの部分をこちらに向けていて、その姿を見ているうちに、もし自分の尻にハサミがついていたら、こうして便座に座ることは当然出来ず、自らの尻にハサミをつけているハサミムシが随分と奇妙な生き物であるように思えた。
ハサミムシは生まれながらにして、尻にハサミがついていることを不可解なことだと思ったことはないのだろうか。僕は時折、指が五本あることが不思議で仕方なく、じっと手を見つめてみたり、鏡に向かった際、なんとはなしに目にはいる耳の形が、ひどくグロテスクであるように感じて、慌てて目を反らしたりすることがある。おそらく前世は人間以外の何かだったのだろう。あるいは自らの尻にハサミがついていることを不思議に思うハサミムシだったのかもしれない。