『宇宙戦争』(ネタバレ)

映画を見終わったあとに、本屋に寄って、原作を探してみた。角川文庫版(小田麻紀)、ハヤカワ文庫SF版(斉藤伯)、創元SF文庫版(中村融)、創元SF文庫版(井上勇)と四つも訳書があった。どうして創元SF文庫版が、二種類もあるのかはよくわからない。ちらちらと飛ばし読みしながら、もう二十年近く前、小学校の図書室で借りて読んだ時の変な黴臭さを思い出した。黴も微生物の一種に違いない。『宇宙戦争』の原題は『The War of the Worlds』で、逐語訳すると『諸世界の戦争』となり、つまり『文明の衝突』を意味するのだというようなことが確か、ハヤカワ文庫SF版の解説に書かれてあった。成る程と思った。

別れた妻から預けられた娘と息子を連れ火星人の襲撃からただ逃げ惑う主人公のトム・クルーズはただの港湾労働者で特別な技能は何も持たない。自らは決して火星人に立ち向かおうとはせず、勇ましく火星人に向かっていこうとする息子に「妹のことを考えろ」といいはするが結局は止め得ず、意見の違いから匿ってくれた恩人をも殺してしまう。ほとんど幸運と偶然により生き延び、家族の再会を果たすが、そこにはすでに彼を除いての新しい家族が形づくられていて、彼の入り込む隙間はない。宇宙からの闖入者の攻撃を辛くも生き延びたら、次は自分が闖入者になっていたという辛辣な結末。この映画のスピルバーグは火星人なみに容赦がない。家庭というものをどこか軽蔑しているところがある僕は、この呵責にすっかり参ってしまった。家庭の不和は一番小さな戦争に他ならない。『宇宙戦争』はSFスリラーの形を借りたホームドラマだった。