リチャード・パワーズ / 柴田元幸著『舞踏会に向かう三人の農夫』(みすず書房)

舞踏会へ向かう三人の農夫

舞踏会へ向かう三人の農夫

ようやく読了。スティーヴ・エリクソンの『黒い時計の旅』が情念的、『舞踏会に向かう三人の農夫』が理知的という評をどこかで読んだのだけど、『黒い時計の旅』が計算され尽くした情念であったのに対して、自由奔放に脱線を繰り返す『舞踏会に向かう三人の農夫』の方がよほど情念に満ちているように思えた。三つに分かれたセクションの係わりはこちらの安易な想像を越え複雑に絡み合っていくのだけれど、饒舌な脱線がちょうど本編への注釈のようになっているので、けして難解ではなく、よく出来たミステリを読み終えたような心地好い読後感があった。


ポール・オースターの訳者柴田元幸が訳しているというので興味を持ってからはや数年。定価三千二百円の壁に阻まれずっと読めずにいたので、いい加減本ぐらい好きに買えるだけの甲斐性を持たねばならぬと思う。
思うだけなら銭も労力もいらない。