『終りに見た街』

太平洋戦争を現代の価値観で描きなおすのではなく、現代の価値観をそのまま戦時下に放り込んでしまうところが、今年数多く制作された他の戦争を扱った映画やドラマとは一線を画すると思った。
軍国少年として戻ってくる元引きこもり少年と、中井貴一の娘の言葉が衝撃的であるのも、彼らが戦時下に生を受けた少年少女ではなく、現代の少年であったからで、戦時下を舞台としながら、あくまでも問われているのは現代なのであり、それを踏まえれば、現代と重ねあわされたラストシーンも当然の帰結であって、奇妙なことは何もない。
中井貴一に「今は昭和ですか。それとも平成ですか。西暦の、二千何年ですか」と問われた男が、「二千……、二千……」と答えようとするが、昭和二十年は、皇紀でいうと二千六百五年であり、当時の人間にとって、二千何年か、と問われれば西暦よりも皇紀の方が身近であったろうから、皇紀で答えようとしたという風に説明がつく。あとの光景は少年と娘の言葉に衝撃を受けた中井貴一の心象を反映した光景であり、本作のテーマそのものだ。