島尾敏雄 『魚雷艇学生』(新潮文庫)

予備学生から特攻隊隊長として奄美群島加計麻呂島に赴任するまでを書いた島尾敏雄の特攻隊体験のいわば序章。裏表紙には「悪夢のような苛烈な体験をもとに、軍隊内部の極限状態を緊迫した筆に描く」とあるが、この『魚雷艇学生』自体は、苛烈でも極限でもなく、ある種のモラトリアム状態にあったように思える。四十年の月日を経てなお鮮明に活写されるその様子に、まるで今朝方見た夢を描いているかのような不思議な印象を受けた。