P・D・ジェイムズ 『女には向かない職業』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

小説に描かれた女性の中でもっとも好きな女性はコーデリア・グレイだ、と常々思っていたものの、不思議と一度も再読していなかったので、久しぶりに再読してみる。初めて読んだ頃、僕はまだ十代だったはずで、あの頃はまだ二十世紀だった。関係のない話だ。
訳が少々読みづらく、台詞の訳し方に工夫がない、などと贅沢なことを思うも、本筋はほとんど忘れていたので、新鮮な気持ちで読めた。『名探偵の掟』を再読し終えたところだから、というのではないのだけれど、最後のどんでん返しの連続に、本格推理という形式への痛烈な批判があるように思えた。メタミステリという形式を取らずにそういったことが出来るということがひどく新鮮だった。コーデリア・グレイが登場するもう一作『皮膚の下の頭蓋骨』の方がインパクトが大きかったので、この『女には向かない職業』には地味な印象があったのだけれど(確かに事件自体は地味だ)こちらも大変な傑作であると思う。

蛇足ではあるけれど、いしいひさいちの『女(わたし)には向かない職業』というのも面白い。