井上光晴 『地下水道』(岩波書店)

今まで読んでことのある井上光晴の作品と比べてだいぶんと雰囲気が違っていて、年譜を見てみると、今まで読んでいたのは三十代から四十代にかけての作品で、この『地下水道』は五十三歳の時のものだった。齢を重ね重厚になるというよりむしろ軽妙になっているような印象で、いくつかに分かれたパートのそれぞれは平易に読めるのだけれど、その組み合わせが難解というかいく通りもの組み合わせ方が出来るようにも思え、いや、そんな辻褄あわせをする必要はないようにも思える。面白い。