P・D・ジェイムズ/隅田たけ子訳 『ナイチンゲールの屍衣』(ハヤカワ文庫)

殺人事件を捜査するために現れるダルグリッシュ警視は、閉鎖的コミュニティにおける闖入者であるのだけれど、単に殺人事件を解決するというだけでなくついには殺人にまで到ってしまったしがらみを全て露わにしてしまう。今作の主役は人間関係そのものであって、容疑者どころかほとんど関係者ですらない傍観者の目により始まり、終わっているのが実に象徴的に思えた。
前作の『不自然な死体』にはいささか期待を裏切られてしまったのだけれど、今回は十分に堪能できた。文句があるとすれば、相変らずダルグリッシュ警視が推理の過程をほとんど明らかにしてくれないことと、もう少し描写があってもいいのではないかと思えた人物が幾人かいたくらいである。

相変らず解説に「よくいえば重厚、悪くいえば、やや暗く重苦しいのがP・D・ジェイムズの世界なのである」と書いてある。こんなことを解説陣が毎回書いているからP・D・ジェイムズの作品にある種の近寄りがたさを与えているのではなかろうか。