黒井千次 『メカニズムNo.1』(三笠書房)

『メカニズムNo.1』
黒井千次のデビュー作。筒井康隆の初期の頃を想起させるようなドタバタ具合が楽しくもあるが、構図が単純すぎ、結末もまた安易で、一番初めにこれを読んでいたら、黒井千次という作家に興味を持つことはなかったと思う。しかし、作風は随分と変化しているものの、のちの作品に(といってもまだ一冊しか読んでいないのだけれど)通じるものも随分とあって、そういった意味では興味深かった。


『冷たい工場』
『メカニズムNo.1』では、「アイウエオ」や「カキクケコ」などという名前が登場人物に与えられていて、『冷たい向上』では「ドドド」や「ゼゼゼ」といった名前がつけられているのだけど、読み進めていくにつれ、不思議とこちらの方が名前らしく思えてきて、「アイウエオ」や「カキクケコ」が、あくまでも「ア行」と「カ行」であるに過ぎないのに、言葉としてはより意味を持たないはずの「ドドド」や「ゼゼゼ」が次第に人の名前として意味を持ちはじめてくるのがなんとも面白かった。出発点としてはこちらの方が解り易い。