白いプラスチックのまな板の縁から、一匹の蟻がトコトコと登ってきて、しばらくその様子を眺めながら人参を切っていると、包丁の切っ先で、蟻の頭と胴を切り離してしまいたいという衝動が生まれてきたのだけれど、それは何故だか凶悪なものではなくて、何かそうするのが当然のような気持ちだった。人参を切り終えてしまうとすぐに次の行程に移ったので、蟻をプチリと切り離すことはしなかったのだけれど、まな板を洗うときに、蟻がまだいるかどうか確かめなかったから、あるいは水道の水に流され、シンクの底に吸い込まれていったかもしれず、今度は不思議と良心の痛みのようなものを感じて、蟻がいなくなったことを確かめてから洗えばよかった、と思ったのだった。