黒井千次 『ビル・ビリリは歌う』(『石の話 黒井千次自選短篇集』講談社文芸文庫)

ビルの中に住まう得体の知れないなにものかが、社長命令により追い出されてしまうという構図はいささか単純で、おとぎ話調の語り口もあまり好きになれるものではなかったのだけれど、この短篇集が自選短篇集であり、傑作選というわけではなく、四十年近い作家活動を辿るように選ばれていることを思えば、この『ビル・ビリリは歌う』が冒頭に置かれているのは勿論作者の意思であって、自選短篇集ならではの意義と面白さがそこにあり、「ビル・ビリリ」が追い出されてしまったからこそ、この次に進めるのだ、ということを読み終えてしばらくしてから感じて、何かと興味深かった。