小島信夫 『島』(『新潮現代文学37 小島信夫』新潮社)

当初江戸時代末期あたりの離島の話だと勝手に思い込んでいたので、どうやらそうでないらしいことが徐々にわかってくるのが楽しかった。文明国であるはずの「大ケンリ島」での出来事の方が、未開の地であるはずの「島」での出来事よりより滑稽で、そのけったいさに倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』を想起したりする。
「父」「村長」「番人(=眠り男)」「確認者」と段々により上位の権限の大きいものが登場しているようで、結局のところ「私」が子供でいるうちはまるきりの優越者などはおらず、「私」が大人になり権限を帯び戻ってくると、世界はその様相を変え(「エントツ」が「記念塔」になっている)、子供のころにはあれほど利発に振舞っていたはずの「私」は途端に逃走してしまう。だから何なのかということは別にわかりはしないのだけれど、けったいな小説として十分に面白く読めた。