風邪薬

自転車を駐輪場に停めると、丁度足もとに風邪薬の空き瓶と百円ライターが並べて置いてあった。
ちょこなんとふたつ並べられたその様子はどこか可笑しく、初めて入る店だったからなにやら小さく歓迎された気がした。家からさほど遠くないどころか普段行くスーパーと比べてもほとんど変わらないその大型スーパーに今まで行ったことがなかったのは、単にその辺を通ったことが一度もなかったからで、家の近所だというのにまるきり通りかかったことがなかったのは、高速道路の向こう側だったからだ。僕だけのことかもしれないが、踏み切りやトンネルやらの向こう側は実際の距離の長短にかかわらず、遠いように感じられる。高速道路ともなれば、もうほとんど巨大な壁のようで、その向こう側にはほとんど行くことがない。
そんな訳で一度も行ったことがなかったその大型スーパーは、二十四時間営業であるだけでなく、駅前の我が街で一番大きな書店よりも広い書店がテナントとしてはいって、ラジコン鉄道模型専門店などもあったりして、なにやら楽しかった。便意を催し入ったトイレのちょうどしゃがんだ目線の先にあった落書きが、「うちのかあちゃんレズビアン」であったのも可笑しかった(本当だとしたら結構切実に思い悩むことなのだろうけど)。
こんなところがあったなんてまったく迂闊だったなぁ、と思いながら店を出ると、先ほどの空き瓶とライターの配置が変わっていた。自転車と平行に上下に置かれていたのが、自転車に対して垂直になるように左右になっていた。おそらくはあとから来た誰かが、なんでこんなところに風邪薬の空き瓶とライターがあるんだ? と思わず手に取り戻した際に置き換わったのだろう。
いや、あるいはなにかの暗号か深遠な啓示であったのかもしれない。明日もう一度行って、また配置が変わっていたらどうしよう。