松浦寿輝『花腐し』(『花腐し』講談社文庫)

こういったことが書きたい、ということはよくわかるのだけれど、文章も物語もほとんど深化していかず、表層で固着してしまっている印象を受けた。思うに、字面美しげに流れる文章に、切実さが欠けていて、どうしても頭の中だけでこねくりまわして出て来たもののように感じられるためだろう。まるで出来の悪い箱庭のようで、出来の良い箱庭であれば、眺めるだけでも楽しいが、出来の悪い箱庭を眺めるくらいだったら、自分で作った方がずっと楽しい。
松浦寿輝は読まず好きをしていた作家なのだが、町田康などに比べて嫌いな要素はほとんどないにもかかわらず、読んでみたら格別好きではなかったということになりそうだ。