ここ数日の読書

古井由吉 『椋鳥』(『椋鳥』中公文庫)
古井由吉 『槿』(福武文庫)

刊行された年はそう違わないのに、『槿』に比べて、『椋鳥』が随分と読みやすいのに驚いた。先日読み終えた短篇集『夜明けの家』(一九九八年刊行)も、『槿』(一九八三年刊行)に比べて読みやすく、年を取るにつれ段々に平易さを増していったのだろうと思っていたのだけれど、実は『槿』が古井由吉の小説のなかでも格別濃厚だ、ということなのだろうか。それにしても『槿』の濃密さは凄まじいほどで、ようやっと百ページを越したところである。とはいっても読みづらいとか難解だというわけではなく、たしかに今までまるで見たことがないような言いまわしに出くわし思わずギョッとしたりはするが、文章自体がわからないということはなく、あまりに濃密であるせいで、ほんの少しばかりでも読み流してしまうと、途端に前後関係がわからなくなり、一言一句たりとも疎かに出来ず読むのに多大な集中力を要する。武道の達人と相見えるとこんな感じだろうと思う。
読みづらいといえば、大江健三郎大西巨人が僕にとって二大読みづらい作家で、どちらも興味はあるのだが、数ページ読んでは放り出すということを繰り返している。