中上健次 『岬』(文春文庫)

表題作『岬』は、『枯木灘』『地の果て、至上の時』と続く秋幸三部作の第一作。ほかの収録作は昨年末に読んでいて、なぜだか間が空いてしまった。人物関係があまりに複雑なため、『枯木灘』の巻末に収録されていた血縁図をたびたび眺めながら読む。
秋幸を中心とした近親間の愛憎を、悲劇でもあり喜劇でもあるように描き出す無骨な語り口の鮮烈さは、凄いの一言。他の収録作三作にはさほど感銘を受けた記憶はなく、「もどかしさ」は十分に描かれていたが、「もどかしさ」だけで終ってしまっていたような印象があったのだけれど、『岬』を読み終えてみると、その「もどかしさ」は、『岬』に辿りつくまでの長い助走であったかのように思えてきた。