古井由吉 『眉雨』(福武文庫)

帯には「川端康成賞受賞作『中山坂』収録!」と大きく書かれているのだけれど、この『中山坂』は、他の古井由吉の短篇にある複数の視点が折り重なる重層的な構成を持たず、視点は「女」の傍を離れないでいて、「普通の小説」に近い感じで、「普通の小説」としてよく出来てはいるが、「古井由吉の小説」としては、あまり面白い方ではないのではないか、と思う。競馬好きの老人の代わりに馬券を買いに行く話であるから、競馬をやる人はもっと楽しく読めるかもしれない。『邯鄲の』『道なりに』『沼のほとり』などを楽しく読んだ。