遠藤周作 『イエスの生涯』(新潮文庫)

ここで描かれているイエスは、神の子ではなく、エッセネ派の流れを汲む特異な宗教改革者であり、奇跡は行わず、ただ「神の愛」だけを説く、現実には無力なイエスであり、僕のような信仰とは無縁の人間にもわかりやすく好感が持てるイエス伝となっていた。
しかしながら、このイエス像はいわゆる三位一体、イエスの神性を否定するもので、カトリックからしてみてば、異端以外のなにものでもないはずで、それでいて遠藤周作カトリック信者であるというのはどうもよくわからない話なのだけれど、あるいはそのあたりの矛盾、葛藤といったことが、小説家としての遠藤周作のテーマになっているのかもしれない。白状してしまうと、遠藤周作は『悪霊の午後』や『真昼の悪魔』といった伝奇ミステリめいたものや狐狸庵山人としてのユーモアものしか読んでおらず、『海と毒薬』や『沈黙』などの著名作も読んでいないのだった。

イエスの生涯 (新潮文庫)

イエスの生涯 (新潮文庫)