古井由吉 『辻』(新潮社)

最初の二編を読んだ時点では登場人物がロンド形式に入れ替わっていくようなものだと思ったのだけれど、そうでなくて似たような境遇エピソードが語られていても、細かなところは異なるし名前も違う。しかし読み進めるうちに、それぞれ別々の話が折り重なっていって、ひと組の男と女の話が織り上がっていくかのように思えてくる。そのことが象徴していたのが、最終話『始まり』で、この話は母親を亡くした男と、父親をなくした女が出合う話であり、ここにいままでの男女の話が、すべて収斂していってるように思えた。それぞれの話自体はどこか淡く軽妙でさえあるのに、一話一話読み進めていくにつれ、少しづつ濃さを増していく。こんな連作短編の方法もあるのだな、と舌を巻いてしまった。一言で言うととても凄い。

辻