野坂昭如 『東京小説』(講談社文芸文庫)

東京を舞台とした連作短編。迂遠的な文章とはうらはらにどれもオチがきっちりと着いていて、これはショートショートの落とし方じゃないのかなーと思うのがいくつかあり、多少不満に思いつつも楽しく読めた。一見破天荒で豪放磊落なようでいて神経質な巷説によるところのA型人間な印象。「私は野坂昭如である」で始まる『私篇』の内容を信じるならば、実際きれい好きで細やかな神経の持ち主のようだ。『私篇』にそれまでの十二の短編が収斂していく様は見事で、それだけに最後に併録されている『山椒媼』は蛇足であると思う。テーマ的には共通しているし、他の単行本などには未収録だったりするのかもしれないが、せっかく『私篇』できれいに終わっているのだから、そのままでよかったのではないかと思う。

東京小説 (講談社文芸文庫)

東京小説 (講談社文芸文庫)