G・ガルシア=マルケス/旦敬介訳 『愛その他の悪霊について』(新潮社)

スペインによる政治的支配とキリスト教による宗教的支配の二重の統治下にあって、「愛」を渇望する人びとの物語。ただこの物語の人びとは自らが求めているものが「愛」であることに気づいてはおらず、誰一人として愛を成就出来るものはいない。そんな重苦しくなりそうなテーマを描いていながら、人びとの言動はどこか滑稽で、それ故もの悲しくもあり、数日かけて読むつもりが、ひと息に最後まで読んでしまった。
読み終えて、印象的なラストシーンを脳裡で反芻していると、はっと思うものがあって、前書きにある作者が記者時代に出会った修道院解体の挿話を読み直し、主要登場人物が全て骨となってすでに登場していたことに気づく。侯爵の墓が空であることもすでに描かれていた。ラストシーンが冒頭に繋がっていくというのはよくある手法ではあるけれど、なかなか鮮やかに決まっていて、さすがに上手いものだと思う。

愛その他の悪霊について (新潮・現代世界の文学)

愛その他の悪霊について (新潮・現代世界の文学)