後藤明生 『めぐり逢い』(集英社)

「私は猫嫌いである」の書き出しから始まり、猫嫌いの「私」が犬猫禁止の団地で、いかにして猫を飼うようになったのかが、後藤明生お得意の脱線を繰り返しながら書き進められている。しかし読み終えて思ったのは、「成る程。夫婦の話だったのか」ということだった。猫嫌いの私と、猫好きな妻の軸が中心にある。二匹の猫が去ったあと、残るのは一組の夫婦であり、「何故、猫など飼いたがるのだ」という一番身近な他人に向けられた好奇の目がそこにあるように感じた。