書籍探求

以前から気になっていたジェラルド・カーシュの『壜の中の手紙』が、文庫化されたというので、地元の本屋を三軒回るもどこにも置いていなかった。地元の本屋といっても駅前のそれなりに大きい本屋や、ショッピングモール内の講談社文芸文庫も扱っている本屋である。先日買いそびれた新訳『ロリータ』の文庫本も相変わらず置いていない。ついでにいうならポール・オースターの『ティンブクトゥ』も置いていない。僕の探す本を先回りして、隠し回っている悪の組織があるのではないかとの疑念を覚える。
何年も前に、莫言の『酒国』という小説を探して京都と大阪の大型書店を回ったが、なかなか見つけられなかったことがあった。或る書店で、店内検索の装置があり用いてみたところ検索に引っ掛かったので、小躍りして示された書架にいったところ、どこにも現物がなく落胆する、ということもあった。『酒国』のレビューを読んだのが、『炎』という文芸誌形式のハードロック専門誌(風間賢二の『ブックジャンキーの誘惑』というコーナーがあった)だったのと、ちょうどボルヘスをいくつか読んだあとだったので、この世に存在しない本を探しているのではないかとの強い思いに囚われ、一冊の本がないというだけで、身の回りの何もかもが疑わしいもののようにさえ思え始めたのだが、ダメもとで入った書店で見つけることが出来た。『酒国』自体も面白かったが、このめぐり逢うまでの過程が楽しく、時折思い返しては、「いやーあん時はえっがたなー」と、少しばかりの幸福に浸ることがある。

今では少し探して見つからなければ、ネットで買えばいいやと、結局そのまま忘れてしまうことが多いから、こうした経験はもう出来ないと思う。