上映の前

シネリーブル梅田にて上映を待つ間、窓際に据えられた席に座って、窓の外を眺めていた。
眼下には人工の小川を流れる遊歩道のようなものがあり、その向こうには日本一の貨物駅であるJR梅田貨物駅がある。大阪の一等地に広がるこの巨大な貨物駅は、再開発の建設用地となっていて、近い将来その機能を移転し廃止される予定であることをどこかで聞いた覚えがある。JRFと記されたいくつものコンテナがずらりと並び、フォークリフトが忙しく立ち回るその脇を、関空特急「はるか」が、すり抜けるようにして走っていく様子は、どこか滑稽に思えた。梅田貨物駅の向こうには、ここに来るまでに立ち寄ったヨドバシカメラの社屋がドデンと鎮座していて、その上方にちらりとヘップファイブの赤い観覧車が見えていた。
あの観覧車にただの一度だけ乗ったことがあることを思い出しながら、眼下に目を戻すと、遊歩道のベンチにノートパソコンを膝に載せた男が座っていた。右手には煙草をふかしながら、左手で携帯電話を構え、時折小器用に煙草を挟んだままの右手で携帯電話を押さえ、左手でキーを打っていた。その様子はいかにも忙しなく見えたが、やがて電話を終え、ノートパソコンをたたんで立ちあがった男は、溜息ひとつつくことなく、別段何もなかったかのようにその場を立ち去った。男をすっかり見送ってから、あの男が仕事に疲れ、電話を終えたあとも、しばらくグッタリとベンチに腰掛けたままであることを半ば期待していたらしいことに気づいた。その期待は少し恥ずかしいものだと思いはしたが、思うだけで少しも恥じ入るとこのない自分を、少しは恥じるべきなのだろうな、とややこしいことを思った。グッタリと座りこんでしまっているのは自分自身である気がした。