津原泰水 『ピカルディの薔薇』(集英社)

社会派推理や本格ミステリに滅ぼされてしまった探偵小説の衣鉢を継ぐのは津原泰水しかいない! などと前作『蘆屋家の崩壊』を読んで変に期待していたのだけれど*1、期待ほどではなかった。奇想というほどの奇想もなく、無難にまとめられたものが多いように感じた。そのあたりは作中に「『この結末はどうも難解ですね』といわれるのだ」とあるのが関係しているのかもしれないのだが、もっとやりすぎるくらいでいいと思う。中井英夫オマージュに溢れる表題作『ピカルディの薔薇』なども、思わずニヤついてしまうところが何カ所もありはしたものの、結末自体は安易過ぎで、もう一ひねりすればもっと面白くなったのではないか。そんなふうになにかもどかしく読み進めていくなか、唯一文句なく楽しめたのは食べ物の話に終始する『フルーツ白玉』で、猿渡シリーズには食べ物への偏愛がなくっちゃ、と思う。

津原泰水からは少し離れたことになるが、「本格ミステリ」というジャンル自体には幻滅しつつ、今でも時折ミステリを読むのは、探偵小説の雰囲気が好きで、現代の探偵小説といえるようなものを読みたいと思うからなのだけれど、どうも上手くめぐり逢わないでいる。古井由吉黒井千次のほうがよほど探偵小説の雰囲気があると思ったりもするが、これはそう感じるほうがおかしいのかもしれない。

ピカルディの薔薇

ピカルディの薔薇

*1:文庫以外の本を定価で買うことをほとんどしない僕が本を定価で買うというのはよほどのことなのだ。ちなみにこの『ピカルディの薔薇』以外で、今年定価で買ったのは古井由吉の『辻』のみ。