カフカ/長谷川四郎訳 『カフカ傑作短篇集』(福武文庫)

カフカは十年ほど前に『変身』を読んだきりなので、ほとんど初めてのカフカといっていいかもしれない。
カフカといえば「不条理」ということになるのだろうけれど、この短編集から僕が感じたのは「不条理」よりも「ユーモア」で、それもなんだかよくわからない不思議なユーモアだった。ブラックユーモアというのとも違うし、あるいはもしかしたら作者自身はそれをユーモアだとは思っていないんじゃないかとも思えてしまう得体の知れなさがあって、オモロ気持ち悪いといった感じ。
それといろいろな作家の中にカフカが入り込んでいるのを実感した。「万里の長城」にある要素は、ポール・オースターの『偶然の音楽』の中にあるように感じたし、「火夫」のトランクを巡る短いくだりは、後藤明生の『壁の中』の「外套」に、拡大されて取り込まれているように思う。他の作品にも顕著に影響が出ているのかもしれないが、小島信夫の『島』は、ほとんどカフカの『城』(まだ最初の数十ページしか読んでないけど)なんじゃないかという気がする。
今更カフカ凄いね、というのもなんだけど、それでもやっぱカフカ凄いね。

カフカ傑作短篇集 (福武文庫―海外文学シリーズ)

カフカ傑作短篇集 (福武文庫―海外文学シリーズ)