奥泉光 『モーダルな事象』(文藝春秋)
これは傑作なんじゃないか、と途中までは思っていたもの、元夫婦刑事パートがミステリとしていささか退屈で(人物描写は楽しいのになぁ)、手掛かりを拾い集めるためだけに全国を移動しているようで、出来の悪いRPGのアイテム探しのごとくになってしまっていたのが残念。この辺りをもう少しシンプルに整理し、元夫婦刑事の推理合戦だとかサスペンスめいたものがあって、中だるみを解消出来ていれば、「こりゃ傑作だ!」と思ったに違いない。
とはいっても、桑幸助教授のパートや、幻想的な描写(オカルト要素は専門の伝奇作家に比べると説得力不足だけど)、複雑な構成などは十分楽しめたので、それなりの満足感があり、つまりミステリとしては不満だけど、小説としては面白かったということで、ミステリばかり読んでいた時期に読んだのなら、「こりゃ駄目だ」と思ったかもしれないのが自分でも興味深い。何事もタイミングだよなぁ。
桑幸助教授は幸運どころか散々酷い目に遭うわけなのだけど、最終的には自らの「詩と信条」に到達するわけだし、本人がとっても楽しそうなのでハッピーエンドなんでしょうね。他の作品で駄洒落言うためだけに登場してたりしたら楽しいと思うんだけどどうなんだろう。
- 作者: 奥泉光
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/07/10
- メディア: 単行本
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