フィリップ・K・ディック/浅倉久志訳 『高い城の男』(ハヤカワ文庫)

第二次世界大戦が枢軸国側の勝利で終わり、ドイツと日本が世界を二分している世界が舞台。読むまではもっと現実と虚構が複雑に入り混じったようなものだと思っていたのだけれど意外とそうではなくて、すると、作品の中で小説として登場する我々が知る「現実」(必ずしもイコールではないけど)が徐々に作品内での「現実」を侵食していき、最後にすっかり裏返ってしまうようなものかと思いきや、そうでもなくて、世界の転換は個人の内側でのみ行なわれる。あっと驚く派手さには欠くもののと、十二分にはっとさせられた。普段SFなど読まない人にお薦めかもしれない。
日本人が好意的に描かれ過ぎているのはちとむず痒く思う。

ところで、作中に重要なアイテムとして「銀の三角」というものが出てくるのだけれど、萩尾望都の『銀の三角』の元ネタだったりするのだろうか。