夜食を買いに

美容と健康のため、なるたけ夜食は取らないのようにしているのだが、どうにも腹が減って寝つけそうになかったから、ガサゴソと台所を漁ってみるも、こういった時に限ってなにもなく、普段ならここで諦めてしまうところなのだけれど、もう完全に腹がなにか食べるモードになってしまっていたので、コンビニまでなにか買いにいくことにした。
ああ、雨がちらついているではないか、とうらめしく思い自転車を走らせていると、家の近くの病院の前に人影があって、少しギョッとしながらちらりと見やると、幼い少女が母親らしき女のまわりをぐるぐる飛び跳ねているのだった。母親の方も、それを窘めるでもなく、どこか楽しげで、その様子はいかにも健康的であり、別段幽霊らしくもなく、時間が深夜なのが妙なところだが、なんらかの事情あってのことだろうと、自転車を走らせた。
そんなことを変に気にしてしまうのも、恥ずかしながら未だにお化けの類が怖いからで、真暗な家に一人帰るのが怖かったから、家の電気をつけっ放しにしてきたほどなのだ。

コンビニからの帰り、あいかわらず雨がちらちらと降るなか、病院の前までくると、先ほどの親子がまだそこに居た。それどころか、少女の兄らしい男の子が増えていて、二人して母親のまわりをぐるぐる飛び跳ねていたのだった。その光景に思わず身震いしてしまったのだけれど、おそらくはあの少年が退院したところかなにかで、帰りのタクシーを待っているところなのだろうと、なるべく変な風に考えないようにして、自転車を漕ぐ足を強めた。
家まで帰り着くと、なるべくまわりの様子も見ないようにして、家の扉をあけると、部屋の電気が消えていた。
大袈裟でなく玄関先でしばらく立ち尽くし、電気をつけっ放しにしたつもりで、根っからの貧乏性から、無意識のうちに消してしまったのだろうと、なんとか納得して、いや納得もなにも、それしか考えられない。部屋の気配を窺いながらムシャムシャと押し込んだサンドイッチはいかにも味気なく、眠気もまるでなかったが、ガバリと蒲団にもぐりこんだ。
しとしとと降る雨の音を聞きながら、そういえば先ほどの親子が、荷物らしきものをなにも持っていなかったことを思い出し、あるいは入院しているのは父親で、あの親子は遅くまで付き添ってこれから帰るところだったのかもしれないと思う。こんな時間まで幼い子どもを連れて付き添うというのもおかしな話なのだけれど、あるいは急に翌日の退院が決まって、その準備に帰るところなのかもしれない。入院中は寝巻きだけだったろうから、ちゃんとした服を用意するのと、あとは風呂くらい沸かして、明日の朝改めて迎えにいくのだろう。ああ、そうだ。そうに違いない。
そう無理に納得していると、不意に雨音が強まり、ざぁざぁと本降りになった。
なぜだかあの親子がびしょ濡れになりながら、ぐるぐる飛び跳ね続けている気がした。