黒井千次 『群棲』(講談社)

「路地をはさんでお互いに"向う二軒片隣〟の関係にあるこれら四軒の家を主たる舞台」とした連作短篇。なにやら隣近所のドロドロとした人間模様といったものを想像してしまいそうだけれど、作者が黒井千次である時点でそうでないのは明白で、この四軒の関係はきわめて希薄なものであり、お互いがそれぞれ少しずつ覗き見るといった程度でしかなく、その希薄さはそのままそれぞれの家庭のなかにもあって、希薄である故深刻である。しかし、その希薄さが短篇として積み重ねられていくうちに、徐々に濃さを増していき、ついには溢れんばかりまでになる。この読み進めていくにつれ、それぞれの不安が折り重なり、自分の中に堆積されていく様子は、ほとんど心地好いくらいで、できればあともう少し続いて欲しいくらいだった。

群棲 (講談社文芸文庫)

群棲 (講談社文芸文庫)