松浦寿輝 『もののたはむれ』(文春文庫)

松浦寿輝の処女短篇集。裏表紙に「新しい幻想文学の誕生」とあるのだけれど、新しさはまるで感じられなかった。むしろ幻想文学(この名称はあまり好きでないのだが)を好んで読んでいる僕などにとっては、あまりにも既知なものばかりで、新たな感興を得るということはなく、退屈に思えるほどだった。怪しげな古物商、幻の路面電車、古ぼけた映画館など、いかにも「いかにも」ではないか。ひどく悪い言い方をしてしまえば、作者自身が好きだという内田百閒の短篇を本物とするなら、酷い出来とまではいかないまでも出来が良いとはいえないイミテーションであるように感じられた。こういう世界に憧れるのだという気持は十分にわかるのだけれど、あまりにもはなから作り物めいてしまっている。
この『もののたはむれ』から受ける作風の印象は立花種久のものに近しいように思うのだけれど、立花種久の方が格段に好みであって、この違いは一体なんだろうかと思う。この短篇集が面白く読まれるのなら、立花種久のものはより面白く読めると思うのだが、立花種久の方は未だほとんど無名であるのが解せない。もう僕だけの立花種久であればよいと思う。
とはいっても、作風や文章自体は好みであるし、この『もののたはむれ』は処女小説集なのであり、文学的野心のようなものはまるで感じられないことから、この頃はまだ本業の余技として、気楽に楽しみながら書かれたものであるようにも思うので、他のものも是非読みたいとは思う。

もののたはむれ (文春文庫)

もののたはむれ (文春文庫)

追記
書いてから思ったのだけれど、最近の自分は、「日常と地続きである非日常」というようなものより、「日常の内側から染み出してくる非日常」あるいは「非日常の内側から浮かび上がってくる日常」というようなものの方に関心が向いていて、その為、日常なるものがはなから存在しないこの短篇集を楽しめなかったのかもしれない。