塩野七生 『サロメの乳母の話』(中公文庫)

『ネロ皇帝の双子の兄』までは、歴史上無名な人物が歴史上の著名な人物を振り返るという体で書かれていて、出てくるのが地中海世界の人物に限られているのは塩野七生なのだから当然というかしかたないというか。これもそれぞれ面白かったのだけれど、地獄に堕ちたクレオパトラソクラテスの妻クサンチッペ、マリー・アントワネットなどがただくっちゃべるだけの『饗宴・地獄篇』がとても面白く、地獄落ちしてもまだ人民服を脱ごうとしない新入りの江青クレオパトラが「トロツキーだって昔のことは水に流して、けっこうスターリンと仲良くしてますわよ。これが地獄の愉しいところなの」と説得するところなど思わず吹き出してしまったくらい。これだけでまるまる一冊分くらいあってもいいくらいだと思ったのだけれど、中途半端に二編だけ入っているところをみると、これ以上は続かなかったのだろう。この地獄には近々カストロ議長もいくわけだ。こんな地獄なら僕も地獄落ちしてみたい。