藤枝静男 『愛国者たち』(講談社)

キエフの海』に出てくるロシア旅行に同行したSとEって誰だろう、と思い、年譜を見てみたら城山三郎江藤淳であったりした。なんとはなしにSのほうが好意的に書かれている気がする。『異床同夢』収録されている『プラハの案内人』にもSとEは出てくる。ざっと読み直してみるとこちらではSのほうが出番が多かった。二人とも二十歳ほど年下となる。
この頃から初期の作品にある生真面目な硬さが抜け、のちの『田紳有楽』の世界に近い自由奔放なさが加わってきている。『或る年の冬 或る年の夏』を書き終えて自らの半生に書くことに一区切り着いたということなのだろう、と思い、『或る年の冬 或る年の夏』のあとがきを見てみると、実際に「これでやっと一度書いておきたいと考えていたテーマに結着をつけることができたわけである」とあった。
表題作である『愛国者たち』はこのなかにあってやはり異質だと思う。