藤枝静男 『落第免状』(講談社)

藤枝静男の初随筆集。小説のほうでは徐々に増していったように思えるユーモラスな筆致がすでにありながら、どれも軽く書き飛ばしたようなところがなく小説同様に楽しめる。志賀直哉に対する敬意の念に溢れながらけして美化しない描き方はなかなか凄いと思う。志賀直哉里見紝小津安二郎を連れ浜松に来たときの様子などは傑作で、もう少し長めに書いて欲しかった。小津安二郎がマネージャーのように鉄道の時間を調べたりしていて、「いや、こういうことは助監督時代にさんざんやらされたんで馴れてますよ」というところなど小津安二郎ファンが読めば卒倒するのではないか。
本多秋五から「近代文学」創刊の知らせが届くところから始まる「わが『近代文学』」には思わず泣けてしまった。昭和二十年十二月という戦後間もない頃の話である。いかにして狂奔して『近代文学』を作り上げていったか、その辺のことを詳しく本多秋五平野謙が書いていれば読んでみたいと思う。