藤枝静男 『小感軽談』(講談社)

偽の仏像が真仏になる話や、インド旅行、満州チベット密偵をしていたらしい古道具屋の店主の話など、のちの『田紳有楽』の舞台裏のような話が満載で楽しい。判彫りに熱中し、作った印が、立原正秋高井有一後藤明生辻邦生大江健三郎、小川国夫、古井由吉加賀乙彦阿部昭らのもので、いわゆる「内向の世代」が多いのが面白い。政治や思想抜きの彼らの大先輩ということになるのかもしれない。
藤枝静男が初めてつくった印が、『挟み撃ち』出版の際に、約束した後藤明生のものであるのが、藤枝静男後藤明生をこのところ主要な関心としている僕にとって、妙な縁なようで楽しい。後藤明生のエッセー集はまだほとんど読んでいないのだけれど、藤枝静男から印を授かったことがどこかで書かれていそうだ。