後藤明生 『笑坂』(中公文庫)

追分を舞台とした連作短編集。舞台が追分の山荘周辺と限られている分、月日を奔放に飛び越える後藤明生の語りの自在さが際だっていたように思う。今の光景が、不意に数年前の光景に連なり、その「今」にしたところで、語りのなかでの「今」でしなかなく、当たり前の時間の流れなどないかのようで、格別なにかがあるわけでないのに、非常に堪能できた。