横溝正史 『夜歩く』(角川文庫)

ネタばれは特に忌避していない、ということは以前にもちらりと書いたと思うのだけれど、やはりミステリのネタばれを書くのには抵抗があって、どうにもミステリの感想は書きにくい。完全に自分用のメモ書きに過ぎないと、割り切ってしまえばいいのだけれど、ことミステリに限っては自分も不用意にネタばれを見たくないだけに割り切れない。というようなことを長々と書くのは、メイントリックについて言及したい気持があるからなのだが、やはり公開している以上書くべきではないだろうと、葛藤しつつ、ちらりと書いてしまえば、この『夜歩く』では、非常に有名な古典的トリックが用いられているので、勘のいい読者なら、数ページ読んだだけで、「これは、もしや」と勘づく。それどころか、目次を見た段階で、「おや」と思うに違いなく、そして、目次で気づくような勘のよい読者なら、今僕がここに書きつけている程度のことで、どのようなトリックが用いられているのか勘づいてしまうに違いないのだ。ああ、ネタばれだ。というようなことを承知で書くのは自分が、目次を見た段階で、「おや」と思い、たまには鋭いときもあるじゃないか、と自分のことながら少し感心したからである。しかしメイントリックに気づいたからといって、興味が減じるわけではなく、むしろ作者の手の内が半ば見透けてしまうことによって、まだ見透けていない残りの半ばに興味がいって、却って面白く読めたくらいだ。