後藤明生 『夢と夢の間』(集英社)

『季節の記憶』が、「僕」と他人との距離感が近しい小説だっただけに、後藤明生の「自分」と「他人」との距離の取り方が異様なほどに思えた。妻や息子に対しても、その他の他人同様に距離を取っている。決定的な態度を留保し続けているといっていいのかもしれない。特にこの『夢と夢の間』では、主人公である山川はほとんど後藤明生自身といっていいくらいなのに、小説家ではなくて、私立大学の講師となっている。自分自身に対してさえそうやって距離をおく。後藤明生の小説の多くが作者自身や、作者に近しい人物を主人公としながら、けして私小説とはいわれないのはこの距離の取り方にあるのだろう。
ところで後藤明生は、この『夢と夢の間』と同じく私立大学の講師を主人公とした『壁の中』連載後に、本当に早稲田大学の非常勤講師になっているのが面白い。早稲田の講師は一年で辞めるのだが、その後近畿大学の教授となっている。小説家が何故大学教授となるのか、興味深いところで、おそらくそのことについて何か書いていると思うのだけども、後藤明生の後期の作品は手に入り難いので困る。