夢中阿房列車

このところ寝る前に阿川弘之の『南蛮阿房列車』を少しづつ読み進めていたせいか、列車に乗る夢を見た。
乗り込んだのは、通常の列車の二倍くらい幅のある大きな列車だったのだけれど、前に列車のなかに動物園やプールなどが完備された馬鹿でかい列車に乗る夢を見たことがあるから、それに比べるとだいぶ手狭な感じで、対向式の坐席が三列連なった車輛を何輛か過ぎると、食堂車に出た。内田百輭の「阿房列車」にはあまり食堂車は出てきた記憶がないのだけれど、「南蛮阿房列車」のほうでは、毎回食堂車が出てくるから、その影響なのだろうけど、何故だかパスタ専門のビュッフェになっていて、パスタだけで十種類くらいあり、見たこともない真っ白なパスタは餅米で出来たパスタだそうで、それはつもり細長い餅ではないかと今にして思うが、夢を見ている間は、別に不思議がることもなく、至極当然のように思っていたようだ。トッピングの類もやたらとあって、これも今にして思えば、これはパスタというより、うどん屋の形式なんじゃないかと思うのだが、今更そんなことを思ってみたところ見た夢は変わらないし、筒井康隆が、見た夢を小説にして書いていたら、夢のほうが小説にあわせて変じてきて、しまいにはとんでもなく恐ろしい夢を見るようになったから、夢を小説に書くのは止めにした、というようなことをテレビでいっていたから、夢の改変など下手にするもんじゃないのだろう。
ともかくパスタを皿に盛ってトッピングを選んでいると、同行の誰だか知れぬなにものかが、「スッポンがありますよ。○○さん」と僕の名前を呼んで、なんだかまるいブヨブヨとしたゼラチンの固まりみたいなのを僕の皿に盛ってくれた。その他いくつかトッピングを選んで、最後にミートソースをかけたところで、この食堂車には、食事をするためのテーブルが一つもないことに気づいて、同行のだれだかは、「立って食べればいいじゃないですか」などというが、うどんやそばでもあるまいし、スパゲティを立って食うやつがあるか、ひどく憤慨したところで目が醒めてしまったので、肝心の味のほうはわからず仕舞いだった。
結局スパゲティを食べることが出来なかったのがなんだか一日中気がかりだったので、夕飯にミートソーススパゲティを作った。スパゲティをずるずる食べながら、いくらなんでもミートソースにスッポンはあわへんよなーと思うも、よくよく考えてみれば、スッポンなんぞ食ったことがないから、実は案外あうのかもしれない。