カズオ・イシグロ/土屋政雄訳 『日の名残り』(ハヤカワepi文庫)

おもしろうてやがてかなしき執事物語。
年老いた執事がイギリスの田園風景のなかを旅しながら懐かしい思い出を思い返すという進行と回顧の二重構造のなか、その回想にも、語られることのなかに、語られないことが透けて見えていて、召使いであるとともに、屋敷の主人でもある執事というものを描くのにこれ以上はないだろうという技巧が施されており、なおかつそれが自然なのだから凄い。土屋政雄による執事口調の翻訳も見事にはまっていて、こちらも凄い。

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)