北森鴻 『凶笑面 蓮丈那智フィールドファイルⅠ』（新潮文庫）

民俗学とミステリは相性がよさそうだと読む前は思っていたのだけれど、実際に読んでみると、似たもの同士であるだけに、双方のバランスを上手く取るのは難しいようで、民俗学の方面が面白そうであれば、作中で起きる事件への興味が薄れ、事件への興味のほうが強ければ、民俗学方面のことが強引なこじつけに思え、面白くないこともないのに、なんだか読んでいてもどかしかった。枚数の都合もあるのだろうけども、フィールドワークで現地に赴くやいなやすぐに事件が発生してしまって、実際にフィールドワークしている場面はほとんど描かれておらず、なんだかひどく性急に思えてしまったのも残念なところで、それぞれの材料自体は面白そうなのだから、長編とまではいかないが、中編くらいの長さでじっくり書いてたほうがよかったんじゃないかと思う。探偵役である蓮丈那智の造形もステロタイプ過ぎてあまり面白くない。ミニクくんのほうは好感が持てるが、出来ればもっとオロオロして欲しい。あと、起こる事件が殺人ばかりなのもなんだか単調で、誘拐、脅迫、失踪と、絡める事件のタイプも色々あると思う。文句ばかりだけれど、「聖徳太子はイエス・キリストだ」というのをトンデモにならず説明してしまうのは面白かった。

凶笑面　蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)