筒井康隆 『パプリカ』(中央公論社)

数日前に読了。
筒井康隆が「夢」というテーマで書いたわりには実験的要素が少なく、娯楽色が強い。
読む前に勝手に期待していた夢への特別な考察や、新たな解釈といったものは特になく、第一部の夢探偵パプリカによる治療法は、ユング流の夢分析と大差ないし、第二部のラスト近くの夢の扱いもほとんど魔法のようであって、あまりに都合が良すぎる。千葉敦子のキャラクターも中年男性の理想像のごとくで、好きになれない。などと色々不満も大きいけれど、抜群のテンポがあって、後半の夢が現実に噴出し出す部分を唐突にならずにごく自然に小説の流れに乗せている辺りは大変上手い。娯楽小説としては面白いが、筒井康隆が「夢」を扱った小説としてはさほど面白くないといったところで、事前の勝手な期待がなければ、傑作だと思ったかもしれない。

パプリカ (中公文庫)

パプリカ (中公文庫)