北森鴻 『狐罠』(講談社文庫)

裏表紙の説明では骨董の世界を舞台とした古美術ミステリということになっているけれど、ミステリというよりかは贋作を用いた「目利き殺し」のコンゲーム小説で、ミステリとしての要素はさほどなく、いささか無理に殺人事件を絡めたような印象がある。ただ殺人事件に伴い現れる根岸四阿の刑事二人組がとてもいい味を出していて、この二人のシリーズがあってもいいんじゃないか、と思ったら、『メビウス・レター』に登場しているらしい。『花の下にて春死なむ』の舞台となっている三軒茶屋のバー「香菜里屋」もさりげなく出てきているのがなんとも小憎い。
色々面白い要素も多く、実際だいぶ楽しく読んだのだけれど、主人公である宇佐見陶子のキャラクターが、他の個性的なキャラクターに比して、いささか弱いところがあって、時折その言動にひっかかったりした。そもそも目利き殺しを仕掛ける動機が弱いんじゃないか、と思う。

狐罠 (講談社文庫)

狐罠 (講談社文庫)