鑪幹八郎 『夢分析入門』(創元社)

僕の夢への興味の持ち方は、どちらかといえば脳生理学的な興味の持ち方だと思うのだけれど、フロイトユングを無視して通りすぎるわけにはいかないだろうから読んでみた。いろいろな夢分析の方法が紹介されているが、どれも決定的でないように思え、フロイト自身がいうように夢分析には手品師がトリックを解き明かすのに似たところがあって、非常に鮮やかに思えもするし、ちょっと見方をかえればとてもインチキ臭くもある。結局のところ、フロイトが夢は無意識への王道だと考えたほどには夢分析は決定的ではなくて、夢分析が人の内面を知るのに有効な場合もあるといった程度に過ぎないのだと思う。1976年出版の本なので、現在では大きく認識も変わっているかもしれない、というか多分変わっているんだろう。
夢分析から離れたところでは、フロイトが本来文学を志していて、パリ滞在時代にマラルメランボーといった象徴派詩人から影響を受けていたというのが興味深かった*1。そういわれてみれば、フロイト夢分析の方法は、いささか性的偏った万物照応の方法といえると思う。その詩人になれなかったフロイト精神分析が、シュールレアリスムを始めとする芸術・文化方面に多大な影響を及ぼすのだから、面白い。こういった思想、哲学、科学、芸術が、お互いに入り混じって影響を及ぼし合うのを体系だって理解出来ればとても面白いだろうと思う。学生時代にもう少しまともに勉強していればよかった、とつくづく思う。今の僕は自分でもびっくりするほどに無知で、どうしようもない。

*1:本当かどうか疑わしいという説もあるそうだけれど