合せ鏡

すっかり日が暮れてしまってから電車に乗ると、向かいの坐席のガラス窓に、こちらの坐席が映り込んでいた。それだけでなく、こちらの坐席のガラス窓に映り込んだむこうの坐席の様子も映り込んでいて、外の光景とこちらとあちらの坐席の三つの風景が、同時に見えていたのだった。ちらりと振り返ってみれば、こちらのガラス窓にも、あちら側の坐席とあちら側のガラス窓に映り込んでいるこちらの坐席と、そして当然外の光景が見えていて、なんともややこしい有り様だったのだが、車内の誰も気にしている様子はなかった。