小堀用一朗 『三人の"八高生" 平野謙 本多秋五 藤枝静男』(鷹書房弓プレス)

作者は本多秋五の姉の息子で大学教授なのだが、どうも本を書き慣れていないようで、分量的に本多秋五に関する記述が多いのはそれでいいとして、非常に構成が悪く、年代もあちこち行ったり来たりするし、単純な表記ゆれも多い。しかし色々知らないことも多かったので、参考にはなった。
平野謙本多秋五藤枝静男の三人は高校時代(旧制)に出会い、生涯の友であり続けた。彼らが青春時代を過ごしたのは戦前戦中の激動の時代であり、左翼活動、戦中の物資欠乏の中での文学活動と、彼らの生き方は実にドラマチックだ。こんな生き方は今ではもう出来ないと思う。藤枝静男が小説家になっていなければどうなっていただろうか。三人の関係はだいぶ違ったものになっていたのは間違いなく、本多秋五平野謙の二人が藤枝静男に小説を書くようにいったのは実に大きいことだと思うのだが、その辺りのことがほとんど触れられていないのが残念だった。あとこれもこの本の中では触れられていないのだけれど、平野謙小林秀雄の親戚であったりする。
今回初めて知ったのだけど、「近代文学」のほとんど前身といっていい「現代文学」の主催者大井廣介は、名門麻生家の一員であり、本名を麻生賀一郎といって、麻生太郎の父麻生賀一郎*1の従兄弟にあたる。左翼崩れの文学者が、のちに皇族との繋がりも持つ名家の道楽息子の元に集っていた図はなんだか面白い。

三人の“八高生”―平野謙・本多秋五・藤枝静男

三人の“八高生”―平野謙・本多秋五・藤枝静男

*1:吉田茂の女婿で、娘がヒゲの殿下こと𥶡仁親王に嫁いでいる。