筒井康隆 『文学部唯野教授のサブ・テキスト』(文春文庫)

唯野教授は論文にてフォークナーを多く取り上げていて、日本の長編ベスト5に藤枝静男の『田紳有楽』がはいっていたりする。「サブ・テキスト」とあるけれど、ほとんどおまけといった感じであまり内容があるようには思えない。もうちょっと何か詰め込めんで欲しかった。
90年代以降の筒井康隆は、あまりに「文学」サイドに偏っていると思っていたりしたのだけど、80年代の前衛的実験作により(SF関係でない)文学賞を次々に受賞していき、『文学部唯野教授』の成功に至るというその過程で、「文学」という「権威」を自らに取り入れてしまったのではないか、ということを『文学部唯野教授のサブ・テキスト』に収録されている「『文学部唯野教授』面白いですね」に終始するよいしょよいしょな対談を読んで思った。
関西ローカルのテレビ番組で、着物姿でいかにも文豪然として、面白いことなど何一ついわずふんぞり返っているだけの今の筒井康隆の姿には悲しいものがあるのだが、芥川賞直木賞の選考委員になれないあたり、いわゆる文壇からは「筒井康隆? ああドタバタSFあがりの人ね」と認識され、SF文壇(というのがあるとして)「筒井康隆? ああ純文学におもねっていった裏切り者ね」というような認識をされており、案外孤立しているのかもしれない。

文学部唯野教授のサブ・テキスト (文春文庫)

文学部唯野教授のサブ・テキスト (文春文庫)