小島信夫 『抱擁家族』(講談社文芸文庫)

奇しくも、平行していて読んでいた『群棲』とは、同じ家族と家がテーマであり、谷崎潤一郎賞受賞作であり、ついでにいうと出版社も一緒であり、なにかと共通点が多い。しかしその描き方はほとんど対照的で、『群棲』では主要な登場人物が等しく薄く狂気を孕んでいるのに対して、『抱擁家族』では主人公三輪俊介だけが一人滑稽なほど右往左往し、内圧高まった狂気を噴出させている(娘と二人ツイストを踊る場面には思わずゾォっとしてしまったほどだ)。家の描き方も『抱擁家族』と『群棲』で随分と違いがあるように思うのだけれどこちらはまだよくわからない(二階を建て増し人に貸した田辺家の老人が狂うのは何故だろう)。『抱擁家族』では家は家族とほぼ同一視されているが、『群棲』では、登場人物それぞれによって意味合いが異なっているように思う。
なにやら比較に終始してしまったけれど、とりあえずはこんなところ。

抱擁家族 (講談社文芸文庫)

抱擁家族 (講談社文芸文庫)